魔術師を探せ!(新訳版) 感想 ミステリーと魔術を食い合わせると?
面白いんだなこれが!
魔術師を探せ! 〔新訳版〕
(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ということで今回はちょっと毛色が違いながらも、本格的エンタテインメントミステリーとして大変読み応えのある作品「魔術師を探せ」の感想。
魔術とミステリーなんて言うと、ともすれば魔術ってものが何でもできそうで幾つかの不可能事(であるかのようなもの)と対峙するミステリーとは相性が悪そうですが、この作品ではそうではない。
◆この世界における魔術と魔術師
まず大前提として我々の科学技術のように魔術が研究され高度に発展している世界であるということを踏まえておこう。
※ただしテレソンなる通信手段を使うこともあり、普通の科学技術も使われているようだ。
いわく魔術を用いるにはある種の「タレント」が必要であり、これは先天的に備わったものである。
またこれをよく用いるには相応の訓練や教育が必要である。
「タレント」の差異によっては行使できる術や程度に差が出るようでもある。
また通常は魔術師や術の行使に関しては教会が管理しており、簡単に扱えるものではないようだ。
術によっては裁判などの証拠としても扱えるようである。
なお魔術の使用に際しては、ゲーム世界よろしくMPを消費して爆発ドーンとはいかず、(「タレント」のない一般人から見ると)面倒な儀式的ともいえる手順が必要で効果も絵面的には地味なものだ。
で作中はこのような魔術を何に使うのかというと、おおよそ「鑑識」と「科学捜査」の性質をもったものとして扱われている。
探偵役であるダーシー卿の優秀な相棒として、マスター・ショーン・オロックリンが推理の裏付けや証拠固めのために術をふるうというわけである。
「鑑識」と「科学捜査」とかいたもののもちろん現実のそれとは異なるが、作中のショーンの説明も面白い。
ダーシー卿自体は魔術に理解はあるもののタレントを持たず、この講釈に耳を傾けることに無理がないうえに読者との距離も近く実に上手い設定である。
ということで本質的なミステリー小説としての推理や追求といった要素を外さず、しかし魔術という架空ながらも地に足の着いた技術系を導入することで、ストーリーの魅力に充分寄与しているのである。
◆舞台設定
解説より流用させていただきます。
架空の英仏帝国(アングロフレンチ)を舞台とする。まあイギリスだなあと踏まえておけば読むのに支障はない。
貴族的な価値観とかがエッセンス程度に盛り込まれており、話にふくらみが出てよろしい。
で、この国家に対してポーランド帝国が敵対心を持っており表立って行動するわけではないが陰謀を巡らしているとされ、この辺が事件にかかわることもある。
◆探偵(役)と魔術師
ダーシー卿
公爵閣下の主任捜査管という役職と権限を持った本作の探偵役。なかなかの地位もあり如何にも貴族的な紳士である。国家への忠誠心は高く頭の回転は当然ながら世事にも長けており、身体的にも優れる。あとイケメンぽい。
推理力もさることながら操作能力も高く足を使って情報を求めることも厭わない。
まあ基本的に公にしづらい事件を扱っているせいもあるのだが。
ショーン・オロックリン
(上級魔術師(マスター)・ショーン)
作中はショーンとかマスター・ショーンとか呼ばれる。ダーシー卿の助手であり、恐らくお抱えの魔術師である。
中々いい性格をしておりダーシー卿もその辺をわきまえていることもあって、部下というよりは捜査上は対等な相棒という関係性は読むのに心地よい。
タレントに恵まれており魔術行使の能力も高い。
いわく彼のような魔術師は中々求め難いということで貴重な人材である。
証拠品未満のものを適切な魔術で推理の助けとなるように仕立てあげたり、魔術師としてのアドバイスもしたりなど本作においては重要なポジションである。
◆各話紹介
その眼は見た(The Eyes Habe It)
いきなりの密室もの。ちょっとばかし女遊びの過ぎる貴族の死体がおよそ侵入が考えられない私室で死体として発見されるところから始まる
ダーシー卿の推理力とマスター・ショーンのものをはじめとして魔術というものがどういうものかを堪能できる。
貴族の立場や義務というものが絡んでくるのでその辺の面白味もある。
オチ当たりの描写・セリフが秀逸。
シェルブールの呪い(A Case of Identity)
港の下働きの男の全裸死体が発見されるところから始まり、とある貴族が狂気を発して失踪、さらには航海におけるポーランド帝国の陰謀の影も見え隠れ…と本書で一番エンタテイメントしているお話で一番ボリュームもあり、スパイアクション的な面白味もある。単純に面白くおすすめ。
青い死体(The Muddle of the Wood)
家具職人の手によって、地方の公爵の葬儀に向けて作られていた棺。ある日その中に公爵ではない死体が入っており、そのうえ死体はなぜか全身を青く染められていた!
捜査を進めるうちに秘密結社アルビオン協会と、さらにはポーランド帝国の関与も疑われはじめる。
一番本作の世界観独自のミステリーという感じはある。
全く意図不明の「棺に入れられた謎の人物の青い死体」というキャッチーな要素を、魔術を駆使して如何に解きほぐし推理を導いていくかというところが醍醐味。
独特の世界観であるものの(解説ではSFミステリとも)そこまで現実とかけ離れておらず魅力のある設定である。
登場人物の描写も良く設定を飲み下すのに支障はない。
私はイギリス貴族的な描写はよくわかんないのでそのへんナナメ読みしたが、さほど影響はなかったので飛ばしてもいいんじゃないかな?
通り一般のミステリを読み飽きたなら(飽きてなくても)おススメの本である。
まだ未訳のシリーズがあるようなので、是非とも続刊を希望!
以下のリンクも購入の参考にどうぞ↓
黄金の羊毛亭 ダーシー卿シリーズ
Wikipedia ランドル・ギャレット
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